実務に役立つ民法・債権法改正~変更点セレクト20 No.6 時効障害事由

今回のポイントは4つ。
・時効の更新及び完成猶予はどういう意味なのか。
・どういう場面で時効の完成猶予や更新が認められるか。
・仮差押え・仮処分は、更新事由か完成猶予事由か。
・協議を行う旨の合意の時効に対する効果はなにか。

1 時効の効果を更新または完成猶予の2つに再構成

改正法では、新たな時効期間が進行する「更新」と一定期間時効の完成が猶予される「完成猶予」という2つの分類が導入され、時効障害事由毎に、更新と完成猶予の適用関係が規定されました。

なお、変更された時効障害は、債権の消滅時効だけではなく、債権以外の財産権の消滅時効や取得時効にも適用になります。

2 裁判上の請求等(147条)

(1)権利が確定することなく終了した場合-完成猶予事由(同1項)

裁判上の請求等については、手続進行中には時効が完成しないことと共に、権利が確定することなく終了したときは、その終了の時から6ヶ月を経過するまで、時効の完成が猶予されるものとされました(同1項)。

裁判上の請求等とは、裁判上の請求、支払督促の申立、裁判上の和解・民事調停・家事調停の申立、破産手続参加、再生手続参加、又は更正手続参加を指します。

(2)権利が確定した場合-更新事由(同2項)

裁判上の請求等について、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するもの(和解等)によって権利が確定したときは、時効は、裁判上の請求等の事由が終了した時から新たに進行を始める(更新する)こととされました。

3 強制執行等(148条)

(1)手続中又は取下げ・取消しの場合-完成猶予事由(同1項)

ア 強制執行等については、強制執行等が終了するまで時効の完成が猶予されるものとされます。

イ 強制執行等が申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合には、その終了の時から6ヶ月を経過するまで時効の完成が猶予されるものとされました(同1項)。

ここでいう強制執行等とは、強制執行、担保権の実行、留置権による競売等民事執行法第195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売、財産開示手続を指します。

(2)手続が完了した場合-更新事由(同2項)

強制執行等の場合には、(1)イによる場合を除いて強制執行等が終了した時から、時効は新たに進行を始める(更新する)こととされました。

4 仮差押え・仮処分(149条)-完成猶予事由

仮差押え、仮処分は、改正前は「中断」事由とされていましたが(改正前147条2項)、改正法では、これを完成猶予事由に改め、その終了の時から6ヶ月を経過するまで、時効の完成が猶予されるものとしています。

5 催告(150条)-完成猶予事由

催告の時から6ヶ月を経過するまでの間、時効の完成が猶予されるものとしています(同1項)。催告による完成猶予期間中の再度の催告には完成猶予の効力はないと規定しています(同2項)。

6 協議を行う旨の合意書面(151条)-完成猶予事由

(1)合意要件・初回合意の完成猶予期間は1年以内(同条1項)

時効対象の権利について協議を行う旨の合意が書面でなされた場合には、時効の完成が猶予されます。猶予期間は、次のいずれか早い時です(同条1項)。

  • 1号 その合意があった時から1年を経過した時
  • 2号 その合意において当事者が協議期間(1年に満たないものに限る)を定めたときは、その期間を経過した時
  • 3号 当事者の一方から相手方に対し協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でなされたときは、その通知の時から6ヶ月を経過した時

(2)再度の合意書面(同条2項)-通算して本来の時効満了時から5年まで

(1)により時効の完成が猶予されている間になされた再度の(1)の合意は、(1)の完成猶予の効力を有します。ただし、完成猶予の期間は、通算して本来の時効期間の満了時から5年を超えることはできません。

(3)催告との関係(同条3項)

催告による完成猶予期間中になされた協議を行う旨の合意は、完成猶予の効力を有しません。また、協議を行う旨の合意による完成猶予期間中になされた催告も、同様に新たな完成猶予の効力を有しないとされています。

7 承認-更新事由(152条)

承認を更新事由として改めて規定しています(同1項)。

8 天災等-完成猶予期間3ヶ月(161条)

改正前民法161条に定める天災等による2週間の時効の停止期間を、3ヶ月の時効の完成猶予期間に延長するものです。