実務に役立つ民法・債権法改正~変更点セレクト20 No.4 定型約款による契約とその変更

今回のポイントは、以下の4点です。
・定型約款とはなにか?
・不当な内容はどのように排除されるのか?
・定型約款の内容が表示されない場合の効果は?
・定型約款の変更はどのような場合に認められるのか?

1 定型約款による契約

(1) 定型約款とはなにか

改正法は、いわゆる約款といわれてきた契約類型の内、大半の約款に当てはまる約款を定型約款として、一定の要件の下にくくり出して、民法の契約総則中に規律しました(548条の2~4)。その要件の核心は「交渉の余地のない条項」であることです。

生命保険約款、損害保険約款、損害保険約款、旅行業約款、宿泊約款、運送約款、預金規定、コンピュータ・ソフトウェアの利用規約などのほとんどが「定型約款」の定義に該当するであろうとされています(潮見佳男「民法(債権関係)改正法の概要」226頁)。

定型約款に該当しない約款については、従前の判例に従った規律が適用されます。

(2) 定型約款の定義

定型約款とは、①「定型取引において」②「契約内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」というと定義されています(548条の2)。

①の要件、すなわち定型取引とは、ⅰ「特定の者が不特定の多数の者を相手方として行う取引であって」ⅱ「その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう」と規定しています。

ⅰの要件は、相手方の個性に注目せずに行う取引と理解されており、そのため労働契約は定型取引には該当しないとされています。

ⅱの要件は、交渉による修正や変更の余地のないものであることと一方当事者にとってのみの合理的であることでは足りないことを意味します。

②の要件は、交渉の余地なく契約内容となることを目的とした条項を意味します。いわゆる「ひな型」と呼ばれる条項は、交渉の余地のある場合には要件を満たしません。

(3) 定型約款による合意の成立(548条の2第1項、548条の3第2項)

定型約款は、相手方が定型約款の個別の内容を確認していなくとも、相手方が定型約款を契約の内容とするという合意をした場合及び定型約款を準備した者(定型約款準備者)があらかじめ定型約款を契約の内容とすることを表示していた場合も、合意があったものとみなされます。

しかし、定型約款準備者が定型取引合意前の相手方からの定型約款の内容の開示請求があったのにこれを拒んだ場合には、合意があったものとは見なされません。

(4) 不当条項規制(548条の2第2項)

定型約款に不当な条項が含まれる場合には、その条項の合意の成立を否定しています。

不当かどうかは、相手方が通常定型約款の内容を確認しないという状況下で、相手方に不利益を課す条項について、その定型取引の態様・実情、取引上の社会通念に照らして、信義誠実の原則に反して相手方を一方的に害するか否かで判断されます。

2 定型約款の変更(548条の4)

(1) 定型約款準備者の変更権(同条1項)

改正法は、次のいずれかの場合には、定型約款準備者のみで定型約款を変更できるとしています。

  1. 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき
  2. 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ合理的であるとき

*合理的であるかは、次の事情に照らして判断されます。

  1. 変更の必要性
  2. 変更後の内容の相当性
  3. 548条の4により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容
  4. その他変更に係る事情

4のその他の事情には、当該条項の変更について個別の同意を得ようとすると、どの程度困難かといった事情も含まれます。

(2) 変更後の周知義務(同条2項、3項)

  1.  定型約款準備者は、(1)の変更をするときには、その効力発生時期を定め、定型約款を変更する旨、変更後の定型約款の内容及びその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければなりません。
  2. (1)の変更は、効力発生時期が到来するまでに1に従った周知をしなければ効力が生じません。

3 今後の展開を期待

以上のとおり、定型約款の規定には、規範的な判断を要するものが数多く含まれており、その内実は、今後の運用にかかっています。公正な実務を形成していく上で、実務家の役割が期待されています。