実務に役立つ民法・債権法改正~変更点セレクト20 No.8 契約の解除と危険負担の変更点

今回のポイントは、3点です。
・不履行はあるが債務者に帰責事由がない場合に債権者は契約を解除できますか。
・不履行が軽微な場合にも催告解除は有効ですか。
・危険負担制度はどう変わりましたか。

1 契約の解除の変更点(541条、542条)

(1)解除制度の目的の変更-責任追及から契約の拘束力からの解放へ

これまでの通説は、契約の解除を債務者に対する責任追及の制度として位置づけ、債務者の帰責事由の存在を要件としていました。履行不能による解除を規定した改正前民法543条但書にはこの要件が存在し、履行遅滞による解除を規定した改正前民法541条も、明文の規定はないものの、帰責事由は必要と考えられていました。

改正法は、この考えを改め、契約の解除は、債務の履行を得られなかった債権者を契約の拘束力から解放するための制度と位置づけました。

(2)債務者の帰責事由は不要に

その結果、改正法は、契約の解除に関して債務者の帰責事由の存在を要件とはしていません。すなわち、債務者に帰責事由がなくとも契約の解除の効果は妨げられないという立場を採用しています。

これに伴い、改正前民法543条但書にあった「その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」とする規定は、対応する規定である改正民法542条から削除されています。

(3)催告による解除の要件と軽微性の抗弁(541条)

541条本文は、改正前本文から変更されていませんが、以上の考えに基づき、条文どおり、不履行事実、催告、相当期間の経過があれば、債務者に帰責事由がない場合であっても催告解除は可能という前提に立っています。

もっとも、改正条文は、但書を追加して、不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微である場合には催告解除を否定しています。

(4)催告によらない解除(542条)

542条1項は、債務の全部不能や明確な全部履行拒絶など、不履行により契約の目的が達成不可能になった場合を列挙して、無催告解除ができるとしています。上述のとおり、債務者の帰責事由の存在は解除の要件ではありません。

2 危険負担の変更点

(1)債権者の危険負担を定めた規定の廃止(改正前民法534条・535条の削除)

いわゆる危険負担における債権者主義に合理性がないことを理由に、改正前民法534条・535条は削除されました。

(2) 当事者双方に帰責事由がない場合の債務者の危険負担における履行拒絶権構成(536条1項)

536条1項は、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」と規定し、危険負担の債務者主義の効果を、改正前の反対債務の当然消滅という構成から改め、履行拒絶権構成を採用しました。

契約の解除において債務者の帰責事由が不要となったため、履行不能になり当事者双方に帰責事由がない場合も契約の解除の対象となり、解除するまで、反対債務は存続することなります。このように解除の制度が変更されたことと、改正前における危険負担の債務者主義(履行不能について当事者双方に帰責事由がない場合に当然に反対債務が消滅する)は、制度上の矛盾をきたします。

そこで、当事者双方に履行不能について帰責事由がない場合にも、反対債務の存続を認めつつ、反対債務の履行を拒絶できるということで制度の調整を図ったものです。