今回のポイントは、次の2点です。
・特定物ドグマが否定された意味と効果とは。
・売主の責任に関する期間制限の存続と変更点とは。
1 特定物ドグマの否定、債務不履行責任への一元化
売買契約において売主が負担する責任については、改正前の瑕疵担保責任をめぐり、次のような考え方が対立していました。
(1) 特定物の売主は、目的物の品質について契約上の義務を負わない。
なぜなら、「不具合のないA」という物は元から客観的に存在しないので、「不具合のないA」を渡すという売主の義務は存在し得ない。
売主の義務は、不具合のあるAを渡すことに尽きる。
ただ、それでは買主はAに不具合があるのに、代金全額を支払うことになってしまい不当である。
そこで、売主に契約上の義務はないが、法律で特別に売主に損害賠償と解除の責任を認めることにする。
もっとも、売主には目的物の品質について契約上の義務はないから、買主は品質の不具合を追完する請求(修補請求など)はできない。
これは、特定物ドグマを前提とした法定責任説と言われる考え方です。
(1)の考え方のまとめ
・特定物につき目的物の品質について売主に契約上の義務なし
→損害賠償や解除は特別の法定責任である。
→追完請求はできない。
これに対し、次のような考え方から反論がありました。
(2) 特定物か、不特定物かによって、全く規律が異なるのはおかしい。
また、特定物の売主が目的物の品質について契約上の義務を負わないというのは非常に不自然である。
売主は、目的物の品質について契約上の義務を負うと解すべきであり、売主は品質についても契約上の義務を負うから、それを履行しないのは債務不履行に当たる。
買主は、債務不履行の一般原則にしたがって、修補請求などの追完請求が可能であるし、損害賠償請求や契約の解除も可能である。
これは、債務不履行責任説と言われる考え方です。
(2)の考え方のまとめ
・特定物でも目的物の品質について売主は契約上の義務がある
→損害賠償や解除は、債務不履行責任と同じ種類のものである。
→追完請求は可能である。
改正法は、売主が、種類、品質又は数量に関して、契約の内容に適合した物を引き渡す義務を負うことを前提としていますから(562条)、上記(2)の考え方-債務不履行責任説を採用することを明らかにしました。
そして、契約の内容が目的物に一定の品質を求めている場合や、契約で明確に求めていなくても通常の品質を要すると考えられる場合は、売主は、その品質を有する目的物を引き渡す義務を負うので、目的物に不具合があった場合は、買主は追完請求が可能であり(562条)、債務不履行の一般原則にしたがって、損害賠償及び解除も可能です(564条)。
2 救済手段の整理
改正法では、この理念にしたがって、実務上の整理を行い、様々な類型の救済手段が整理されています(562条以下)。
なお、この理念の変更について、瑕疵担保責任が法定責任説から債務不履行責任説になったことによって、売主に過失がなければ責任を負わないこととなったので、調査してもわからなかった欠陥については責任を負わないでよいというような誤解をしないようにしましょう(本連載のNo.7参照)。
契約に適合した物を引き渡す義務に違反しているのですから、売主が責任を負うことは当たり前です。
3 救済手段の期間制限
実務上は、買主の救済手段には1年の期間制限があるという点が重要です。
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないと、買主は救済手段を失います(566条本文)。
不適合の事実を通知すれば足り、これまでの判例のように責任追及の意思を明確にし、請求する損害額の根拠まで示す必要はなくなりました。
ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この期間制限は適用されません(566条ただし書)。