今回のポイントは次の3点です。
・請負に関する条文についての変更点とは。
・建物その他の土地の工作物に関する特則の帰趨は。
・諾成的消費貸借に関する新たな規律とは。
1 請負人の責任規定の削除
請負の理解のポイントは、スリム化と現代化です。
請負人の責任では、改正前にあった多くの規定が削除されました。
これは、「第3節 売買」の箇所で売主の担保責任の規定を整備したので、請負人の責任にも559条を通じて売買の売主の責任に関する規定を準用し、重複を避けることにしたものです。
その結果、民法典の「第9節 請負」の箇所には、請負人の担保責任を直接的に示す規定はなく、いきなり担保責任の制限と期間制限の規定が出てくることになりました(636条、637条)。
2 建物その他の土地の工作物に関する特則の削除
もう1つ重要な点は、建物その他の土地の工作物に関する特則を削除した点です。
改正前民法では、建物その他の土地の工作物については、瑕疵があってそのために契約をした目的を達成できなくても、契約の解除はできませんでした(改正前635条ただし書)。
これは、土地の工作物を撤去することによる社会経済的な損失を避けるための規定でしたが、判例(*1)によって重大な瑕疵のある工作物について建替費用相当額の損害賠償が認められており、解除と実質的に同様の結果が生じることが認められていましたから、削除されることになりました。
また、建物その他土地の工作物に関しては、担保責任の期間は、工作物又は引渡しから5年又は10年という特則がありましたが、こちらも削除されました(改正前638条)。
期間制限の規定を改め、注文者は、目的物の種類又は品質に関して仕事の目的物が契約の内容に適合しないことを知った時から1年以内にその旨を通知することとして、注文者の負担軽減が図られたためです(637条)。
このあたりは、判例の展開や規定の整備により、現代化、スリム化が図られたといえるでしょう。
3 諾成的消費貸借の認容
消費貸借は、金銭等の目的物を相手方から受け取ったときに成立します(587条)。目的物の交付が契約の成立要件なので、要物契約と呼ばれます。
改正法では、587条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、合意のみによって契約が成立することを認めました(587条の2)。
これは、実務における取引上の要請から、もともと判例(*2)によって認められていたものを明文化したものです。
軽率な契約の成立を防ぐため、書面を要求することとしている点で、単に諾成化したわけではありません。なお、書面には電磁的記録も含まれます(587条の2第4項)。
また、諾成的消費貸借の借主は、目的物を受け取るまでは、契約の解除をすることができます(587条の2第2項前段)。
この目的物受け取り前の借主の解除によって、貸主に損害(資金調達コスト等の損害)が現に発生した場合は、貸主は借主に対して損害賠償請求ができます(587条の2第2項後段)。
(*1)最判平成14年9月24日判例時報1801号77頁
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=76100
(*2)最判昭和48年3月16日金法683号25頁